前回は「新築賃貸マンション設計のアイデア〜建築コストを強く意識した設計・急上昇した工事費:強いインフレ傾向と工事費の増加・利回りアップの具体的アイデア〜」の話でした。
コスト削減への姿勢
2021年ごろから急速に上がった建築工事費。
私たち設計者は、工事費を出来るだけ抑制して、建主にご満足いただけるデザインを生み出す努力をします。
この部分を
少しコストを合理化できないかな・・・
建築工事費が急上昇する以前から、多くの建築家・建築設計者が「コスト低減」に努めてきました。
私たちがいただく設計料は「デザインに対する価値」であり、工事費を出来るだけ合理化することも大事です。
そうした姿勢によって、建主にデザイン面でも費用面でも、ご満足いただけるようにしてきました。
一方で、2021年頃からの急激なインフレによって、工事費が急上昇しました。
この急上昇は、「誰も想定していなかった」ほどの早さとレベルで、
ここまで、
建築費が上がると・・・
デザイン・設計の工夫で
低減するのは限られてしまう・・・
設計する側は大変です。
工事を請け負う建設会社の方々も、大変な苦労をしているでしょう。
戸建住宅や幼稚園・保育園などの施設では、出来るだけコストの低減を図り、
これ以上は、
下げるのが難しい・・・
「ある程度止むを得ないコストアップ」は、建主にご理解いただくようご説明します。
一方で、「経済性の高い」賃貸マンションの建築では大きく話が異なります。
賃貸マンションの利回りと工事費
基本的には「利回り=想定賃料/工事費」で考えることが多いです。
これは不動産会社の方によると「粗利回り」に相当し、「ざっとした大まかな利回り」となります。
実際には、工事費以外に私たち建築設計者が頂戴する建築設計監理費や保険料などがかかります。
そして、30〜35年程度の返済期間を設ける賃貸マンションでは、「修繕費用」も非常に重大です。
これらをすべて加味して、「ある程度の利回り」が確保されないと、銀行融資などが進まない場合があります。
銀行融資に関しては、大手の都市銀行と地元の地銀でもスタンスが大きく異なります。
そのため、
A銀行では
融資が断られたけど・・・
B銀行では
融資が通った!
このようなことも発生します。
消防署でも消防署によって見解が大きく異なることがあります。(上記リンク)
同様に、銀行も「見解・融資姿勢」が大きく異なります。
デザイン性で「人気物件」になるように努力して、賃料を少し上げて「分子を上げる」努力をします。
そして、工事費を出来るだけ抑制して、「分母を下げる」努力をします。
「分子を上げて、分母を下げて」利回りを上昇させようという努力です。
坪単価の合理化目指す設計:共用空間や階段にデザインのテーマ
賃貸マンション設計の際に、不動産会社の方が重視するのが「賃料が発生するエリア」です。
「賃貸住戸の面積・仕様・デザイン性」によって、賃料が発生します。
一方で、エントランス・エレベーター・共用階段などは「賃料が発生しない部分」です。
建築基準法では、エレベーターよりも遥かに重要な階段。(非常用エレベーターは除きます)
災害時にはストップしてしまうかもしれないエレベーターに対して、階段は倒壊しない限り使用できます。
共用階段には幅・蹴上(段の高さ)・踏面(段の奥行)などが建築基準法で定められています。
私たちが設計する階段では、
少しゆとりを持った寸法にします。
ほんの少しのゆとりで「歩きやすい」階段をテーマにしています。
災害時には、消防署の救助隊の方が使用することも多い階段。
このくらい余裕があると、
救助の時も、使いやすいね。
消防署との協議の際に、担当の方にこう喜ばれたことがあります。
非常に重要な階段ですが、賃貸マンションでは大多数の方がエレベーターを使用します。
中には、
階段が
どこにあるか知らない・・・
「住んでいるマンションの階段の位置を知らない」という方もいらっしゃるかもしれません。
どうしても必要な階段には、当然コストもかかります。
そこで、私たちは、
必ず必要な階段に、テーマを
持たせて、価値を生み出そう・・・
「階段に価値をつくりたい」と考えています。
「吉祥寺の集合住宅」では屋外階段と中庭を接続させて、「歩いて楽しい」階段を設計しました。
このような考えは「工事費の合理化」につながります。
このように、「賃料が発生しない場所・空間」も大事にして総合的に経済効果も上げたいと考えています。
次回は上記リンクです。