アイデア:都市広場~吉祥寺の集合住宅・広場・経済的合理性・銀行融資・粗利・合理的設計・都市空間に貢献~|東京の建築設計から

前回は「アイデア:都市広場 3~石神井公園の集合住宅~」の話でした。

目次

集合住宅に広場をつくる

吉祥寺の集合住宅:中庭

今回は、吉祥寺の集合住宅における都市広場の話です。

吉祥寺の集合住宅では、植栽豊かな小さな森を創りました。

吉祥寺の集合住宅:中庭

ささやかなスケールですが、都市に武蔵野の森を再現しました。

住まい手が、日々、自然を
身近に感じながら生活するイメージです。

「集まって住む」集合住宅・マンションは、戸建住宅とは、その性格が全く異なります。

そこで、

この「集まって住む」ことを
活かした空間を生み出したいと考えました。

そして、この吉祥寺の集合住宅において、皆が過ごせる「ささやかな規模の広場」をつくりました。

集合住宅建築における経済的合理性:銀行融資と粗利

熊本の家:テラス(新建築紀行)

個人邸の場合、テラスを広場と見なして設計することは、集合住宅に比較すると容易です。

「容易」というのは、設計・デザイン・工法などの技術的な話ではなく、コスト面の話です。

このようにテラス=広場を建築に挿入すると、外壁面が増えるため、コストアップにつながります。

そうしたコストアップは、建主が、

このデザインが
気に入りました。

工事費が少し増額するのは、
OKです。

と了承すれば済む話です。

対して、経済的合理性が強く求められる集合住宅・マンションの建築。

分譲マンションと賃貸マンションでは、設計の視点・経済性が少し異なるので、賃貸マンションを対象とします。

ほとんどの賃貸マンション新築の場合、建主は土地を担保にして、銀行から借入をします。

そして、その借入・融資を25年〜35年程度の長期間に渡り、銀行に返済します。

石神井公園の集合住宅:リビング(新建築紀行)

最近は低金利ですが、金利を含めると20%以上多く銀行に返済する必要があります。

「月々の賃貸からの収益」から「金利を含めた返済金」を差し引いて、十分にビジネスが成立する必要があります。

返済する25年〜35年の間には、外壁塗装・屋上防水などのメンテナンスが必要です。

それらの費用もかかりますが、大まかに「粗利=年間賃貸収益/総工費」が一定のラインを上回る必要があります。

賃貸集合住宅・マンションの経済的合理性

・「月々の賃貸からの収益」-「金利を含めた月々返済金」が、しっかりと建主の事業として成り立つこと

・「粗利=年間賃貸収益/総工費」が一定のラインを上回る

この「事業性」は、早い話が「どの程度儲かるか」であり、それは建主の考え方にもよるでしょう。

仮に、建主が

「儲ける」よりも、
良質な集合住宅を供給したい・・・

と考えて、

「粗利」は小さくても、
住む方に良い住まいを・・・

と考える場合、総工費の大部分を建主が現金で支払れば問題がないでしょう。

一方で、「ほぼ全額を借入」する場合、「ある程度の収益性が見込める」状況でないと、銀行融資が降りなくなります。

すると、建築自体が進まなくなるため、賃貸集合住宅設計の際には、「事業性最優先」となります。

吉祥寺の集合住宅 アクソノメトリック(新建築紀行)

その「事業性最優先」の中、「賃貸収益金を生まない」共用部の広場などは、

これを
作っても費用がかかるだけ・・・

お金を生まないなら、
必要ないのではないか・・・

と、特に不動産業界の方から言われることがあります。

経済的合理性と広場:合理的設計

吉祥寺の集合住宅:エントランスホール

そこで、この「経済的合理性」を最優先するために、広場=中庭は高さが2層までしか建てられないエリアに配置しました。

そして、住戸のボリュームを最大限確保したのです。

その上で、この建築に必要な屋外避難階段を設置する場所を、この広場の空間と関係づけました。

屋外避難階段は、専門言葉で「開放性」が必要です。

簡単に言うと、「ある程度外気に開かれている」階段でなければ、特別避難階段にする必要があります。

特別避難階段は、法規的制約が非常に強いため、出来るだけ避けて、合理的に設計します。

建物が2階までしか建たないエリアに、
この「建築だけの広場」を生み出しました。

このように、「経済的合理性」に対して、「合理的設計・デザイン」を考えました。

この森は広場のような空間で2層の高さのコンクリートの壁で囲われ、落ち着いた空間となっています。

小さな宇宙のような、
広がりを持つ自然の空間ですね。

吉祥寺の集合住宅:コンセプト模型(Copyright : YDS)

経済的な合理性を確保しつつ、この建築だけの中庭の空間を創り出しています。

この中庭に階段を配置し、道の空間として垂直動線である階段が広場を囲む構成にしました。

道の空間と中庭の広場の空間が接続することで、日常生活の中で楽しんで頂けるように考えています。

吉祥寺の集合住宅 パースペクティブ(新建築紀行)

中庭を囲むコンクリートの壁に大きな開口を開け、街からも樹木を見ることが出来ます。

この集合住宅に住む人だけでなく、街を行き来する方もこの樹木をみて、

あっ、
木に花が咲いてきた・・・

と季節感を感じることができるでしょう。

そして、商店街に建つ建築に、自然の空間を作り出して、都市に自然をもたらしました。

「外構の植栽」と異なった存在の、広場=中庭の樹木たち。

「建築内部の自然・樹木」が都市と建築を結び付けます。

小さな森によって、建築が「都市空間に
貢献する」ことを考えました。

竣工写真等は、下記サイトからご覧ください。

新建築紀行

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