共用空間に「見えない」経済価値を生み出す設計〜共用空間を収益化・レンダブル比と利回り・賃貸面積に含まれない共用空間・賃料が発生しない共用部〜|東京の建築設計

前回は「坪単価の合理化目指す設計〜共用空間や階段にデザインのテーマ・コスト削減への姿勢・賃貸マンションの利回りと工事費〜」の話でした。

目次

レンダブル比と利回り

蚕糸の森アパートメント:共用階段から臨む公園

賃貸マンションを設計する際は、提携している不動産会社に賃料査定を依頼します。

このようなプランでは、
賃料査定はどのくらいになりますか?

だいたい、
月に〜万円程度ですね。

すると、工事費がこのくらいだから、
利回りはおよそこのくらいかな・・・

そして、「想定される賃料」と工事費から利回りを想定しながら設計を進めます。

デザイン性を最重視している側としては、経済性に過度に制約を受けることは、本来好ましいことではありません。

制約を受けることは
「好ましいこと」ではありませんが・・・

私たちは
「制約」を逆手にとって、活用することを考えます。

賃貸マンションの設計の際には「レンダブル比」がよく出てきます。

レンダブル比は、床面積に対して、賃料が発生するエリアの面積を示す指標です。

具体的には「レンダブル比=賃貸する面積/延床面積」です。

この「レンダブル比」が高ければ高いほど、「賃料の生まれるエリアの割合」が高いとなります。

経済収益性を重視する不動産会社の方々の視点から見ると、

レンダブル比が
高くなるように設計して欲しい。

となります。

賃貸面積に含まれない共用空間:賃料が発生しない共用部

新建築紀行
吉祥寺の集合住宅:エントランス(新建築紀行)

賃貸マンションにおいて、賃貸面積に含まれない共用部分・空間。

賃貸面積に含まれませんが、不動産会社の方々は、エントランス部分を重視します。

「入居者にとっての顔」となるエントランス。

私たちも
エントランスを重視しますが・・・

全体のデザインコンセプトの
一部と考えています。

私たちも、入居者の方々のことを考えて、エントランスのデザイン性を高めるように工夫します。

エントランスの「華やかさ、豪華さ」よりも
シンプルな空間をデザインします。

エントランス以外の共用部分には、共用廊下・共用階段・エレベーターなどがあります。

エレベーターは基本的にメーカーの製品となり、「仕様」で決まります。

私たちは、「賃料が発生しない」部分・空間である共用廊下・階段を非常に重視しています。

共用空間に「見えない」経済価値を生み出す設計:共用空間を収益化

蚕糸の森公園

都内でも比較的大規模な公園を前にする、非常に恵まれた計画地の「蚕糸の森アパートメント」。

この建築設計を依頼された際、

公園の自然を
建築に取り込もう・・・

まず、このことを考えました。

蚕糸の森アパートメント模型(copyright : YDS)

そして、公園の雄大な自然を散歩道のようにあるくイメージが頭に浮かびました。

階段を
公園に向けよう!

公園の樹木などの
自然を楽しみながら階段を上がったり、降りたり・・・

最も大事なイメージが固まりました。

蚕糸の森アパートメント:イメージ(新建築紀行)

マンション・集合住宅などにおいて、「法規上、必要だから」計画されることが多い階段。

「法規上、必要」ですが、多くの入居者の方がエレベーターを使用する実態があります。

そこで、階段は端の方に追いやられ、「出来るだけお金がかからないように」設計されることが多いです。

私たちは、
必須である階段の空間を活かしたいと思います。

蚕糸の森アパートメント:共用階段から臨む空

階段の空間の前面には大きなガラスを計画しました。

ガラスによって、あえて外部空間と分けました。

階段から
公園の自然が臨めます。

階段から見える風景は四季折々変化し、毎日変化します。

天候によっても自然の光の雰囲気によって、時々刻々変化する自然の光景。

まるで、
絵画のように、自然の変化を楽しめます。

このように、本来「賃料を生み出さない」空間である共用部分・空間。

「賃料を生み出さない」のは変わりませんが、「見えない価値」を生み出しています。

この階段の「見えない価値」によって、

公園を見ながら、
階段を上がるのが楽しい!

エレベーターではなく、
階段を歩くようになった!

雨の公園を
見ながら階段を上がるのも、風情がある!

このような声を入居者の皆様から聞くようになりました。

良い場所であることもあり、賃料が高いエリアに位置する高級賃貸マンションの「蚕糸の森アパートメント」。

さらに「やや高めの賃料設定」で「安定した満室」を生み出しています。

「賃料を生まない」階段の空間で、「見えない賃料」を生み出しています。

それは、デザイン性と経済性を同時に成立させる試みです。

新建築紀行

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