建主の強い思いを形に〜「屋根があるかないか」と建築・「設計だけではない」建築設計の現場・大事な様々な協議〜|クリニック増築計画とプロセス6・東京の建築設計

前回は「建主の『建築への思い』を具体的設計案へ〜難航する消防署との協議・建築設計において非常に重要な消防法・建築確認申請における消防同意〜」の話でした。

目次

「設計だけではない」建築設計の現場:大事な様々な協議

New Architectural Voyage
消防車(Wikipedia)

既存の計画地に新たに「軽油発電機を設置する」計画を進めました。

女性

軽油発電機を設置するなら、
置けば良いのでは・・・

様々なメーカーから発売されている軽油発電機は、「設置すればすぐに稼働できる」製品です。

一方で、かなり大型の設備機器であるため、設置には建築基準法や消防法に適合させる必要があります。

消防署

建築確認申請には
私たち所轄消防署の同意が必要です。

建築確認申請の際には、全ての建築物に対して消防署による「消防同意」が必要です。

建築設計・計画の際の協議先(比較的大規模)

1.指定建築確認審査機関(法令解釈によっては所轄建築主事・建築審査(指導)課

2.所轄消防署

3.自治体(区・市等)

比較的大きな規模の建築計画では、自治体や指定建築確認審査機関との協議が先です。

一方で、今回は「少量危険物貯蔵庫」という扱いになるので、消防署との協議を優先しました。

消防署との協議は難航しましたが、

消防署

「発電機を不燃材で囲う」計画ならば、
認められるかも知れません。

なんとか「認められるかも」という状況に持ってゆきました。

Yoshitaka Uchino

次に建築基準法に関する
協議をしよう・・・

消防署との「消防法に関する」協議をまとめた上で、建築基準法の適合性を協議することにしました。

建築設計・計画に関連する法令

1.建築基準法・東京都安全条例など(東京都の場合)

2.消防法

3.自治体の条例など

建築設計・計画の際には、上記の三つの法令を満たす必要があり、「2.消防法」はクリア出来そうです。

「3.自治体の条例など」に関しては、事前に調査・協議の上、対象外になる見込みになりました。

最後の砦が「1.建築基準法・東京都安全条例」です。

建主の強い思いを形に:「屋根があるかないか」と建築

新建築紀行
東京の街・都市(新建築紀行)

具体的な建築計画の際には、指定建築確認審査機関と協議します。

建築確認のプロセスは民営化されましたが、建築主事及び建築審査課(指導課)との協議が重要です。

所轄地域の建築基準法に関する全権限を握っているのが、建築主事及び建築審査課(指導課)だからです。

ここで、非常に重要なポイントが「増築の扱いにならないようにする」ことです。

建築確認の増築・改築・移転申請不要の基準(建築基準法 第6条)

・防火地域及び準防火地域外

・床面積の合計が十平方メートル以内であるとき

上記の場合は、「6畳程度(10m2)」の小さな面積の増築ならば「建築確認申請不要」です。

ここで、もし「増築なので、建築確認申請が必要」となってしまうと、大変なことになります。

「増築」ということは、「既存の建物と一体」として扱われます。

そして、「既存の建物が建築基準法等の法令に適合している」必要があります。

これは「すでに建物が建っている」以上、

女性

適法であることは
当然ではないのかしら・・・

こう感じる方もいらっしゃるかもしれません。

ところが、すでに建っている建物が「適法かどうか」というと「適法ではない」可能性の方が高いのが現実です。

それは「新築当時適法だった」でも、時間が経過するにつれ「適法ではない状況」になることがあるからです。

そのため、「増築の申請」で「既存の建物が完全に適法であること」を示すのは、大変難しいことです。

さらに、「適法であることを設計図書で示す」必要があり、建築設計上は非常に手間と時間がかかる傾向があります。

そのため、なんとか「増築=建築とはならない」計画で進めてゆく必要がありました。

Yoshitaka Uchino

今回、既存計画地に軽油発電機と
それを覆う建築の計画をしています。

建築指導課

その計画は、
どのエリアですか?

Yoshitaka Uchino

こちらのエリアに
なります。

建築指導課

この地域は防火地域なので、
全ての建築計画が増築になります。

Yoshitaka Uchino

設備機器の周辺を
金属製の壁で覆いたいと考えます。

建築指導課

設備機器の周辺に
壁を建てるのですね・・・

建築指導課

屋根は
付けるのですか?

Yoshitaka Uchino

屋根はつけず、
防火のための壁面のみです。

建築指導課

屋根がなく、壁だけならば、
建築面積に該当しないので・・・

建築指導課

屋根がないならば、
増築扱いにはなりませんね・・・

Yoshitaka Uchino

増築扱いにならないならば、
建築確認申請不要で問題ないですか?

建築指導課

法令上、
問題ありません。

建築指導課

ただし、少しでも屋根を掛け、
建築面積が生じるときは、申請が必要です。

Yoshitaka Uchino

承知しました。
法令を守るようにします。

「建築」の基準(建築基準法)

・屋根があれば、「建築」となる

・柱や梁などの構造のみ、または壁面のみで屋根がなければ「建築」には該当しない(要検討)

建築基準法上、「建築かどうか」は「屋根が重要」です。

新建築紀行
茨城の家:上棟(新建築紀行)

木造建築の柱・梁のみであれば「建築に該当しない」可能性があります。

新建築紀行
茨城の家:屋根工事(新建築紀行)

一方で、屋根がかかれば「その瞬間に建築行為」に該当します。

「屋根があるかないか」が「建築であるかないか」となるため、「ちょっとした屋根」も重要です。

例えば、ゴミ置き場に「ちょっとした屋根」を掛けた場合、掛け方では問題ありませんが、

Yoshitaka Uchino

屋根の掛け方・形によっては、
「建築」に該当する可能性があります。

そのため、「ちょっとした屋根をつける」のは、建築行為となり建築基準法違反の可能性があります。

同じような可能性は、駐車場や駐輪場の屋根です。

これらの屋根は新築時ではなく、ある程度時間が経過した後で設置することがありますが、

Yoshitaka Uchino

駐車場等の屋根の掛け方によっては、
「建築」に該当する可能性があります。

そのため「屋根をつくる」際には、建蔽率・容積率など建築基準法との適合性が重要です。

New Architectural Voyage
発電機設置計画(新建築紀行)

こうして、慎重な協議の上、建築基準法・消防法と完全に適合する建築が完成しました。

建主

やっと、敷地内に
軽油発電機を設置できたね!

建主

いやあ、良かった!
時間が掛かったけど、良かったよ!

建主には大変喜んでいただき、嬉しく思いました。

Yoshitaka Uchino

喜んで頂き、
私たちも嬉しく思います。

ほんの小さな「10m2程度の建築」でしたが、非常に大きな手間がかかりました。

この手間がかかった大きな理由は、「全ての法律への適法性」を大事にしたからです。

法律にはグレーゾーンがありますが、

Yoshitaka Uchino

私たちは「遵法」を意識しながら、
建築をつくってゆきたいと考えています。

そして、こうした「設計者の姿勢」を大事にして、今後も活動を続けたいと思っています。

New Architectural Voyage

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